CASE FILE No.15 ── 事業開始等申告書
事業開始等申告書を出さないとどうなるか(東京都の条例には罰則の条文がなかった)
── 義務はある。罰則はない。税額も変わらない。では、この書類は何のためにあるのか。
- 「事業開始等申告書、出していないけど大丈夫?」
- 「開業届とは別に、都道府県にも出すって本当?」
- 「出さないと罰則はあるの?」
開業届を出したあとに「都道府県にも届出がある」と知って、以前の記事にまとめました。
その後、私は期限(開業日から15日以内、東京都の場合)までに出さないことに決めました。
「出さなくても何も起きない」とは聞いていました。ではなぜ何も起きないのか。それなら何のために制度が残っているのか。
気になったので、東京都都税条例と地方税法を読んで整理しました(参照日 2026-09-14)。
東京都では、出す義務は都税条例第26条に書いてあります。 しかし条例を通して読んでも、出さなかったことに対する過料の条文は見当たりません。 個人事業税は所得税の確定申告のデータを基準に賦課されるので(地方税法第72条の50)、届出がなくても税額は変わりません。 だから何も起きない。それでも制度が残っているのは、この書類が別の目的で使われているからです。
この届出は何か(開業届とは別の制度)
開業届は税務署に出す国の手続きで、所得税のためのものです。
事業開始等申告書は都道府県に出す手続きで、個人事業税のためのものです。根拠は国の法律ではなく、都道府県の条例にあります。
事業税の納税義務者は、事業を開始し、又は事務所若しくは事業所を設けた場合においては、その事業を開始し、又は事務所若しくは事業所を設けた日から十五日以内に次に掲げる事項を知事に申告しなければならない。
書く内容は、住所と氏名、事業所の所在地、事業の種類、開始した日の4つです。
東京都主税局のページでも「事業の開始の日から15日以内に申告をお願いします」と案内されています (出典: 東京都主税局「事業を始めたとき・廃止したとき」・同参照日)。
つまり「出さなくてよい書類」ではありません。条例上は、出す義務があります。
出さないとどうなるか: 条例を読んだ
義務があるなら、出さなかったときの罰則があるはずです。そう思って、東京都都税条例の全文を確認しました。
都税条例には「不申告に関する過料」という見出しの条文が20近くあります。 固定資産の申告をしなかった場合、不動産取得税の申告をしなかった場合、納税管理人を届け出なかった場合などで、いずれも10万円以下の過料です。
しかし、第26条の事業開始等の申告をしなかった場合を対象にした過料の条文は、見当たりませんでした。
個人事業税に関する過料の条文はひとつだけあり、対象は別の申告です。
個人の行う事業に対する事業税の納税義務者が、法第七十二条の五十五第一項の規定によつて申告すべき事項について正当な事由がなくて申告をしなかつた場合においては、その者を、十万円以下の過料に処する。
ここで言う「法第72条の55第1項」は、毎年3月15日までに前年の所得を都道府県に申告する、個人事業税の年次申告のことです。 開業したときの届出(第26条)ではありません。
つまり東京都では、事業開始等申告書を出さないことについて条例上の罰則は設けられていない、というのが条例を読んだ私の結論です。
税額はどう決まるか: 届出がなくても賦課できる仕組み
罰則がないだけでなく、届出を出さなくても税額が変わらない理由もあります。個人事業税の計算のもとになるのは、届出ではなく確定申告だからです。
個人の行う事業に対し事業税を課する場合には、(中略)道府県知事は、当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得のうち(中略)事業所得について当該個人が税務官署に申告し、若しくは修正申告し、又は税務官署が更正し、若しくは決定した課税標準を基準として、事業税を課するものとする。
都道府県知事は、税務署に申告された所得を基準に事業税を課す、と書いてあります。
さらに、年次の事業税申告(第39条の6の過料の対象になる申告)も、確定申告をすれば済んだことになります。
個人の行なう事業に対する事業税の納税義務者が前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書を提出し、又は道府県民税につき第四十五条の二第一項の申告書を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該申告書が提出された日に前条第一項から第三項までの規定による申告がされたものとみなす。
東京都主税局のページにも、はっきり書かれています。
所得税の確定申告や住民税の申告をした方は個人の事業税の申告をする必要はありません。この場合には、それぞれの申告書の「事業税に関する事項」欄に必要事項を記入してください。
確定申告書には「事業税に関する事項」という欄があります。そこに書いた内容が都道府県に渡り、事業税の計算に使われます。
まとめると、こうなります。
- 個人事業税の税額は、確定申告の所得を基準に都道府県が計算する
- 毎年の事業税申告は、確定申告をすれば済んだことになる
- 開業時の届出は、税額の計算には使われない
しかも個人事業税には290万円の事業主控除があるので、利益が290万円以下なら税額は出ません。 開業1年目の多くの人は、届出の有無にかかわらず、そもそも課税されません。
それでも制度が残っている理由(私の見立て)
ここからは条文ではなく、私の考えです。
もともとこの届出は、都道府県が「誰が事業をしているか」の名簿を自分で作るための手段だったのだと思います。 国税のデータが都道府県に渡る仕組みが整う前は、都道府県は自分で事業者を把握する必要がありました。
いまは確定申告のデータで賦課できるので、その目的では要らなくなっています。
ただ、この書類が役に立つ場面はまだ残っています。
- 複数の都道府県に事業所がある人の、事業税の割り振り
- 事業税の減免を申請するときの、事業の情報の確認
- 廃業したときの届出。廃業年の事業税を早く確定させるために意味がある
- 法人の場合は、都民税の事務所設置の届出とひとつの手続きになっている(都税条例第114条の2)
使う人には要る書類として残っていて、廃止するには都道府県ごとに条例を変える手間がかかり、残しておいても害はない。 だから誰も廃止を言い出さない、というのが実態だと思います。
行政の届出には、こういう「本来の目的では使われなくなったのに、廃止もされていない」ものが少なくありません。この届出は、その分かりやすい例です。
私はどうしたか
出しませんでした。
理由は上に書いたとおりで、東京都の条例に罰則がなく、税額は確定申告で決まり、私は事業所が1か所で減免の予定もないからです。
ただし、次に当てはまる人は出しておくほうが安全です。
- 東京都以外で開業した人(条例が違う)
- 複数の都道府県に事業所を持つ人
- 事業税の減免を受ける予定がある人
- 近いうちに廃業の可能性があり、廃業の届出とセットで扱いたい人
- 法人として開業した人(都民税の届出と一体)
それと、出すこと自体に費用はかからず、東京都は電子申請(LoGoフォーム)で5分ほどで済みます。出すと決めた人は、開業チェックリストに15日の期限を入れておくと忘れません。 迷うなら出しておく、でまったく問題ありません。私は「出さないとどうなるか」を確かめたくて出さなかった、という記録です。
よくある質問
開業届を出せば、都道府県にも自動で伝わりますか?
伝わりません。開業届は税務署(国)の手続きで、都道府県の届出は別の制度です。
都道府県に渡るのは、翌年に出す確定申告のデータです。開業した年のうちに都道府県が把握する手段が、この届出ということになります。
期限を過ぎてから出すことはできますか?
できます。期限後でも受け付けられます。
東京都は電子申請ができるので、出すと決めたときにその場で出せます。
利益が290万円以下でも、届出は必要ですか?
条例上の義務は、利益の多少に関係なく「事業を開始した人」にあります。
ただし個人事業税は事業主控除290万円を超える所得にしか課されないので、利益がそれ以下なら税額は出ず、年次の事業税申告の義務(過料の対象になる申告)もありません。
法人化した場合はどうなりますか?
法人は、事業税の開始申告と都民税の事務所設置の届出が一体の手続きになっていて、設立時の手続きとして出すのが通常です。
都税条例第114条の2は、第26条の申告義務がある法人については都民税側の届出を不要とする、という組み立てになっています。個人の届出とは扱いが違います。
個人のまま続けるか法人にするかの損得は、法人化はいくらからの記事にまとめています。

