CASE FILE No.08 ── 退職
失業保険と開業届のタイミング(急いで開業すると再就職手当を受け取れません)
── 開業を1か月早めただけで、数十万円を受け取り損ねることがある。
- 「失業保険をもらいながら、開業の準備をしていい?」
- 「開業届を出したら失業保険は止まる?」
- 「開業届って、結局いつ出すのが正解なの?」
会社を辞めて開業する場合、事業を始める日を1か月ずらすだけで、 受け取れる金額が数十万円変わることがあります。
厚生労働省とハローワークの公開資料(参照日 2026-09-08)から、 開業届をいつ出すかの判断材料を整理しました。
健康保険と年金の切り替えにも期限があります。そちらは 退職して開業する人の14日の壁にまとめました。
失業保険が打ち切られるのは、開業届を出した日ではなく、実際に事業を始めた日です。 自己都合で辞めた人は、待期の7日間が終わり、 さらに給付制限の1か月が終わってから事業を始めないと、再就職手当を受け取れません。 そのうえで、失業保険を最後まで受け取ってから開業するか、 早めに開業して再就職手当を受け取るか、 早めに開業して、受け取っていない分を事業をやめたときに受け取れるようにしておくかを選びます。
開業届を出した日ではなく、事業を始めた日で決まる
まず、よくある誤解を解いておきます。
失業保険(正式には基本手当といいます)は、次の状態にある人が受け取れるお金です。
ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない状態
ハローワークが見るのは、書類ではなく実際の状況です。
つまり、開業届をまだ出していなくても、事業を始めていれば、その日から失業保険は受け取れません。
「開業届を出さなければ受け取り続けられる」という話をときどき見かけますが、これは事実に反しますし、不正受給になります。
裏を返せば、開業届の提出日だけを遅らせても意味がありません。
決めるべきなのは事業を始める日で、開業届の日付はそれに合わせて書くことになります。
いつから事業を始めていいのか
ここが本題です。失業保険の手続きを始めてから、実際にお金が振り込まれるまでには、2つの待ち時間があります。
- 待期の7日間 ── ハローワークで受給資格が決まった日から7日間。全員にあります
- 給付制限の期間 ── 自己都合で辞めた人だけに、待期のあとに加わります。2025年4月1日以後に辞めた人なら1か月です(過去5年の間に自己都合で3回以上辞めている場合は3か月)
この2つの期間中は、そもそも失業保険は振り込まれません。
そして、この待ち時間が再就職手当を受け取れるかどうかを左右します。
①受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、又は事業を開始したこと。
まず、待期の7日間が終わる前に事業を始めてしまうと、再就職手当は受け取れません。
さらに、自己都合で辞めた人にはもうひとつ条件があります。
★自営を開始した場合も、待期期間満了後1か月の期間経過後より対象となります。
給付制限の最初の1か月間は、ハローワークなどの紹介で就職した人だけが再就職手当の対象になる決まりです。
自分で始める事業に紹介はありませんから、この1か月の間に事業を始めると、再就職手当を受け取れません。
事業を始める時期ごとに、何がどうなるかをまとめます。
| 事業を始めた時期 | 再就職手当 | 失業保険(基本手当) |
|---|---|---|
| 待期の7日間が終わる前 | 受け取れない | もともと振り込まれない期間 |
| 待期のあと1か月以内(自己都合で辞めた人) | 受け取れない | もともと振り込まれない期間 |
| 待期のあと1か月を過ぎてから | 受け取れる(残り日数が1/3以上あれば) | ここで打ち切り |
| 会社都合で辞めた人は待期の7日間が明ければすぐ | 受け取れる(残り日数が1/3以上あれば) | ここで打ち切り |
受け取り方は3つある
いつから事業を始められるかがわかったところで、次はお金の受け取り方を選びます。
選択肢は3つです。
| 選択肢 | 受け取り方 | 向いている人 |
|---|---|---|
| A. 失業保険を最後まで受け取ってから開業する | 90日分なら90日分を全部受け取る | 開業まで時間をかけて準備したい人 |
| B. 早めに開業して、再就職手当を受け取る | 残り日数の60〜70%を一時金で受け取る | 事業を早く始めたい人 |
| C. 早めに開業して、受け取っていない分を後から受け取れるようにする | 事業をやめたときに、受け取っていない日数ぶんを受け取る | 続けられるか不安な人 |
AとBのどちらが得かは、残っている日数と1日あたりの金額で決まります。
先ほどと同じ、90日分・1日5,000円の人で考えてみます。
この人が60日分を受け取り残した時点(3分の2以上が残っている状態)で事業を始めたとします。
- Bを選んだ場合 ── 60日 × 70% × 5,000円 = 21万円を一時金で受け取り、すぐに事業を始められます
- Aを選んだ場合 ── 90日 × 5,000円 = 45万円を受け取れますが、開業が2か月遅れます
金額の差は24万円です。
ただし、2か月早く事業を始めれば、そのぶん売上が立ち始めるのも早くなります。
「最後まで受け取るのが常に得」とは限らない、ということです。
自分の日数と金額は、ハローワークでもらう雇用保険受給資格者証に書いてあります(1日あたりの金額には上限があり、毎年見直されます)。
Cの「後から受け取れるようにする」とはどういうことか
AとBだけを比べている記事が多いのですが、2022年7月にCの制度ができています。
まず前提として、失業保険には期限があります。
会社を辞めた日の翌日から1年が期限で、これを過ぎると、まだ受け取っていない日数が残っていても受け取れなくなります。
Cの制度は、この1年の数え方を変えるものです。
2022年7月1日から、事業を開始等した方が事業を行っている期間等は、最大3年間受給期間に算入しない特例を新設しました。これによって仮に事業を休廃業した場合でも、その後の再就職活動に当たって基本手当を受給することが可能になります。
この特例を申請すると、事業をしていた期間は、その1年に数えません。数えない期間は最長3年です。
たとえば、開業して2年後に事業をやめた場合、その2年間は期限に含まれません。
そのため、まだ受け取っていない日数が残っていれば、事業をやめたあとに受け取れます。
申請するには、次の条件を満たす必要があります。
- 事業を30日以上続けていること
- 開業届の写しなど、事業を実際に始めたとわかる書類を出せること
- 会社を辞めた日の翌日よりあとに始めた事業であること(在職中に始めた事業は対象外ですが、辞めたあとにその事業へ専念し始めた場合は含まれます)
- その事業について、再就職手当や就業手当を受け取っていないこと
進め方
離職票を受け取り、ハローワークで求職の申込みをする
ここで受給資格が決まる。待期の7日間はこの日から数える
何日分もらえるか、1日あたりいくらかを確認する
雇用保険受給資格者証に書いてある。A・B・Cの比較はこの2つの数字でできる
開業予定日を伝えて、窓口で確認する
「この日程で事業を始めたら再就職手当の対象になりますか」と聞く
答えをふまえて、事業を始める日と開業届の日付を決める
急ぐ理由がなければ、給付制限の1か月が終わってから
Bなら再就職手当、Cなら受給期間特例を申請する
Cは事業を始めた日の翌日から2か月以内。両方は選べない
期限が重なるので、書き出しておく
この記事に出てきただけでも、待期の7日間、給付制限の1か月、受給期間特例の2か月と期限が並びます。
ここに開業届(1か月以内)と青色申告承認申請書(2か月以内)が加わります。
事業を始める日を入れると自分の期限が一覧で出る開業チェックリストを無料で用意しているので、書き出す代わりに使ってください。
節税額のほうが気になる場合は青色申告でいくら得するかの試算もあります。
よくある質問
失業保険をもらいながら、開業の準備をしてもいいですか?
情報を集める程度の準備なら問題ありません。求職活動を続けているなら、失業している状態は変わらないからです。
ただし、準備に専念している状態になると、事業を始めたものとして扱われることがあります。 受給期間特例の条件にも「事業の準備に専念し始めた日」という表現が出てきます。
どこからが「専念」にあたるかは状況によって変わるので、準備が本格的になってきたら窓口で確認してください。
開業届を出さずに受け取り続けることはできますか?
できません。失業しているかどうかは、開業届の有無ではなく実際の状況で判断されます。
事業を始めているのに失業の認定を受け続けると不正受給になり、受け取った額を返したうえで、さらに納付を求められます。
会社都合で辞めた場合はどうなりますか?
会社都合で辞めた人には給付制限がないので、待期の7日間が明ければ、事業を始めても再就職手当の対象になります(残り日数が1/3以上あることが条件です)。
「1か月待つ」という話は自己都合で辞めた人だけのものなので、待つ必要はありません。
再就職手当を受け取ったあとに廃業したら、残りの失業保険はもらえますか?
その事業について再就職手当を受け取っていると、Cの制度は使えません。条件のひとつに書かれています。
失業保険の期限も、原則として会社を辞めた日の翌日から1年のままです。そこを過ぎれば、日数が残っていても受け取れません。
廃業する可能性を残しておきたいなら、再就職手当ではなくCを選ぶことになります。

